社員の声を形に。「生理休暇を有給化」を実現した株式会社アイルへインタビューしました【mediba’s SDGs #6】
「mediba’s SDGs」第6弾は、「女性の働きやすい環境」をピックアップ。
実は、社員の男女比が6:4と女性社員の比率が比較的高めのmediba。mediba+編集部はそこに着目し、“女性が働きやすい環境”を整えることで、社員全体の満足度向上にもつながるのでは?と考えました。
そこで今回、“女性が働きやすい環境”について考えるため「生理休暇」を有給化するという革新的な制度を作った株式会社アイルへお話を伺ってきました。
今回お話を伺った株式会社アイルのみなさま
「みんなの生理研修」で社員の生の声が浮き彫りに
――もともと無給だった生理休暇を有給化に変更したとのことですが、この制度変更は生理研修を行ったことがきっかけだったとか……?
吉野:弊社の社員の男女比はだいたい7:3くらい。男性が多い会社なので、少数派である女性が生理事情を言えなかったり、隠れてこっそりケアしていたりなど、困っていてもなかなか声をあげられない状況があるという声を耳にすることがあったんです。そんな時、知り合い で「生理用品を社内に設置してみませんか?」という発信をされている方がいて、テスト的に試してみました。その活動が女性社員にとても好評だったのと、その時にとった社内アンケートで女性社員からの生理に対する悩みや意見が想像以上に多く、そこで生理事情のケアに関するニーズが高いことがわかりました。
そして、先ほどの 方から、ユニ・チャームが行っている法人向けの「みんなの生理研修」というサービスをご紹介いただいたことがきっかけで、生理研修を開催しました。研修後の任意参加のディスカッションで女性社員から、「毎月生理痛でお休みすると有給が減ってしまうので、事故や病気があったときにまとまったお休みが取れなくなってしまうのではないかと不安。辛くても我慢してしまいます」という声があがったんですよね。弊社の役員もディスカッションに参加して社員の声を直接聞いていたこともあり、生理休暇の有給化推進の後押しになりました。
言葉の重みと心の重みの変化
――生理研修について社内周知した際の社員の反応はいかがでしたか?
吉野:女性社員の部下をたくさん抱えているマネージャーが多い のですが、「日頃からちょっとあの子生理で辛そうだなと感じていても、なかなか声をかけづらくて、女性社員との生理の向き合い方が難しいと感じていたので研修が良い機会になったらいいな」と言ってもらえました。
岩本:妻の生理が重く、日ごろから「生理」を身近に感じていたのと、私自身女性が多いチームにいるということもあったので研修に参加したいと思っていました。また、知っていてマイナスになることはないと思ったので、他の部門長やマネージャーへ積極的に参加するように声がけをしました。
――生理研修の受講前と後で社員の意識や考え方の変化はありましたか?
岩本:大きな変化ではないかもしれませんが、「生理」という言葉自体は男性が触れていいのか迷う言葉ではあったので、それが会社公認みたいな形で使いやすくなったという変化はありますね。言葉として軽くなったというか。
吉野:ときどき朝礼に遅れてくる女性部下がいて、ある男性マネージャーが「遅刻はよくないよ」と注意していたのですが、実はその女性社員は生理が重くて事情をなかなか言えずにいたみたいなんです。でも、社内的に生理についてケアしていこうという動きがでてきてからは、関わり方が良い方向に変化したらしいです。仕事が遅れているとか、なんだか体調が悪そうとか、機嫌が悪そうだなとか……。そう思ったときに「生理」事情というのが浮かばなかった人も多かったみたいなのですが、生理研修をきっかけに、発想の一つとして「みんないろんな事情をもっているよね」という風潮につながったのは良い流れかな、と思います。
――お二人は受講者という立場だったとのことですが、何か感じたことはありましたか?
三門明:今まで生理について 男性側の意見を聞く 機会はあまりなかっ たのですが、「あ、男性も理解しようという気持ちをもってくれているんだな」と感じて意識が変わりました。
伊勢:私は研修の前後での変化を感じました。以前男性ばかりのチームにいたこともあり、生理で辛いときの説明がなかなか難しかったのですが、研修をきっかけに「生理」という言葉が会社全体に浸透してきていたので、体調不良で休みたいときも伝えやすくなりました。無理して働く必要がなくなったことは、明確な変化だと思います。
――岩本さんは取締役 という立場ですが、経営側の意見としてはどうでしたか?
岩本:生理用品の無料設置もそうですが、経費もそこまで多くかかることでもないのでそれで困っている社員が仕事に集中できる環境ができるのであればやった方がいいよね。やろうやろう、という感じで特に詰まることもなくその場で決定したという感じでした。
代表が社員の働く環境が良くなることは積極的に取り入れようという感覚を持っているので、こういった声を上げて否定されることはあまりないです。もちろん会社に影響が大きいことであれば慎重になりますが、進めてもマイナスがないならどんどんやるといいねというのは、多分弊社の文化だと思います。
吉野:そうですね。会社が社員のことを思ってくれているなっていうのは日頃から感じているので、感謝がモチベーションになっているというところはあります。
大切なのはみんなが心身共に健康的に働ける環境づくり
――生理休暇の有給化を導入するにあたり批判的な声はありませんでしたか?
吉野:声としてあがってきたわけではないのですが、やはりいろんな考えをもった人が集まっているので、女性ばかり優遇されてどうなの、って思う社員はいるかもしれないですね。ただ、この制度を取り入れたことで悩んでいた社員が救われたり、取材のお話やメディアで紹介していただいたりなど、一連の流れを見ていく中で、社会的に注目されるほど価値ある取り組みであることがわかり、最初は批判的だった社員がいたとしても心境は変わっているのではないかな、と思います。
――もともと批判的な意見に対する対応策などは検討されていましたか?
吉野:いろんな意見があることは想定内だったのですが、どう転ぶか正直不安なところはありました。ただ、この制度は女性の優遇や女性は大変、かわいそうと思ってほしいなどが目的ではなく、今まで心身ともに辛くても休めず困っている社員がいたという事実があって、そのための休暇を作ってほしいという要望があったことに対して会社が応えた、ということなんです。なので、もし他の事情で困っている方がいたら、声を上げてほしいですし、性別関係なく、みんなが心身ともに健康的に働ける職場作りができたらな、と思っています。
“声をあげる”ことがスタートライン
――生理で悩んでいる女性社員や、生理休暇の有給化の導入を検討している企業の方などに向けて、先に導入をしているアイルのみなさんからメッセ―ジをお願いします!
岩本:経営者の視点でお話すると、恐らく気にすることは生産性や離職率の低下など、管理者として意識する側面なのかなと思います。しかし、今回の生理休暇有給化のようにちょっとしたことで女性社員が働きやすくなったり、会社に対して感謝の気持ちを持ってもらえたりするなら、会社にとってもすごくプラスになると思うので、こういった制度はどんどんいろんな会社で取り入れていけたらいいんじゃないかな、と思います。とにかく、マイナス面はあまりないんですよね、プラスになる要素の方がすごく多いので経営層の方にそういうことをもっと広く知っていってもらえたらなと思います。
吉野:今回の取り組みで一番感じたのは、社員の声に制度を変えてまで会社が応えてくれたことに対する社員の喜びですね。会社と社員の双方が信頼し合いエンゲージメントの向上を感じました。もともと狙っていたわけではないですが、声をあげたら応えてくれるとか、その分私たちも還元していかないと、という雰囲気ができたことは感じていて社員と会社の心理的安全性の向上を感じます。なので、今後も社内アンケートを実施するなど、社員の声を吸い上げて いきたいです。
また、他社でも制度や環境にお困りの方 にお伝えしたい のは、要望があれば一度声をあげることが大切だと思います 。経営層も発想として なかったり、知らなくて気づけなかったりするだけの状況かもしれません。なので、困っていることがあれば社員のみなさんから声をあげることを諦めないでほしいです。
三門明:普段からコミュニケーションをとることは大事だなと思いました。「生理」には 個人差があり、 症状が重い人もいれば軽い人もいて、同じ「生理」を持つ立場だとしてもお互いで理解しきれないことは多くあると思います。生理に関わらずどんな事例だとしても、まずは普段から社員同士でコミュニケーションをとっているということも、お互いが働きやすい環境づくりをするうえでとても大事だと思いました。
伊勢:やはり、会社が自分たちのことを考えてくれていることを感じ、それが信頼やモチベーションにつながっているという実感があります。こういう事例があると、今度何かあったときに声をあげてみようという気持ちにもなりやすくなるので、好循環が生まれると感じますね。ぜひ他の会社でも、それぞれの会社に合った方法で、どんどん取り入れていってもらえたらいいなと思います。
会社は、たくさんの個性が集まった環境です。
ひとり一人が心地よく働ける環境づくりのため、mediba+では参考となる様々な会社の取り組みをこれからも発信していきたいと思います。
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