「モノヅクリ・デザインの未来」(後編)
こんにちは、編集部の原田です。
社内セミナー「モノヅクリ・デザインの未来」の後編。話題は、3人の考える「イケてるベンチャー」、今後の展望などについてです。 前編はこちら。
イケてるベンチャーってどんな会社?
岡 medibaはベンチャーではないけれど、マインドセットはベンチャーと通常の企業のあいだくらいにしたいと考えています。いろんなスタートアップを見てきたふたりにとって、「イケてるスタートアップ」ってどんな会社だと思いますか?
土屋 わかんないです(笑)。今日どんな話をしようかと思ったんですけど、medibaが岡さんをCXOにする、江幡さんを代表にするということって、KDDIグループの中で自らイノベーションを起こすべき会社になることを望まれているんじゃないかなと思います。
この組織の中でスタートアップっぽいプロダクトを作り出すことが求められているのかなと。 でも、いろいろな大企業がスタートアップマインドをどう醸成するかを模索しているんだと思います。
正直言うと、なかなか大企業から生まれるイケてるサービスはあんまりないんです。かと言って、まったくないわけではない。 例えば、いま時価総額1兆5000億円のエムスリーなんかはソネットの子会社なんです。まったくないわけではない。
社内にどういう文化を醸成していくかだと思っています。
イントレプレナーがたくさん生まれて、それらの失敗を許容する会社がイケてるベンチャーなんだろうなと。昔は部長以上のレイヤーで頭の固い人が多かったんですけど、江幡さんのような人がトップに立つ企業が増えてきているので、ここからの10年は期待できるんじゃないですか。
デザイン・モノヅクリのこれから
土屋 そうだ、参加者の職種は? あと、新規事業やりたい人は?
パラパラとしか上がらない手を見て土屋氏は「もっと増やしたいですね」とポツリ。
ここで岡が問う。
岡 medibaはいろいろな事業がある会社。メルカリさんのようにひとつのサービスに特化するような会社ではない。だから、従業員の育成を考えた時に、ひとつを伸ばすのは意味がないと思いました。
そこで、「創る人をつくる」ということを掲げています。デザインやモノヅクリというものは今後どのようになっていくと思いますか?
すると土屋氏は、再び観覧するmedibaの従業員に問う。
土屋 デザインに対する社内の風潮が変わってきていると感じる人は?
今度は先ほどよりも明らかに多くの手が上がった。
これはすごい状況だと土屋氏。
土屋 デジタルのデザイナーの地位が上がった一番大きなきっかけはiPhoneの登場。というかスマートフォンですよね。あれがデザインの転換期だったといまだに思います。デザイナー的な考えで事業を作ろうというデザイン思考の浸透とスマートフォンの登場が重なったんです。
スマートフォンが変えたことは、人と端末のタッチポイントの増加。
昔はタッチポイントが1日2回しかなかったので、会社や学校ではパーソナルなデバイスを触ることがなかったけれど、スマートフォンの登場から、人は実に6秒ごとに端末に触るようになり、タッチポイントは爆発的に増加しました。
土屋 その中で人々が使いたいと思うものは、いままでは機能性や使いやすさでしたけど、それが「使いたくなるような価値、感情」、さらに「いかに共感を呼ぶか」が重要視されるようになってきました。
そして僕が起業してからの7年間は、欧米でデザイン会社が大きな事業会社に買収されまくるという状態になっています。それくらいデザインが重要になっています。日本でも当然そうです。
僕は2011年にGoodpatchを立ち上げて、UIデザイナーの募集をかけましたけど、当時ファインドジョブとかでUIデザイナーを募集していたのはうちだけです。
岡 いまはどうですか?
土屋 デザイナーの募集はほとんどがUI/UXデザイナーじゃないですか。逆にWebデザイナーの募集がほとんどないような状態です。 年収にも差がついています。
欧米のデザイナー職ではグラフィックデザイナーが一番低くて5万ドル、Webのデザイナーが6万ドル、UXデザイナーは9万ドルです。この流れは日本にもくると思っています。
いままで絵を描くだけだったデザイナーは、ユーザー体験を描くことを求められます。逆にこれまで企画職と呼ばれていた人たちがUXデザイナーにコンバートする時代が来るはずです。
人材バリューが変わります。 今後はUXデザインプロセスを学んで、ユーザーインタビューをこなして、改善策を提案する。そういうことが求められます。実は本質は変わらないのですけどね。
昔のように上から「こうしなさい」とユーザー無視で始まるプロダクト開発はなくなります。
息を吸うようにユーザーリサーチをする
岡 僕が作りたい文化は「リサーチ文化」だったんです。medibaでもまだやりきれていません。でもGoodpatchは息を吸うようにユーザー調査から入りますよね。どうしてそういうことができたのですか?
土屋 なぜ……というか、普通なんです。もう、そういう会社なんですよね。僕らは再現性を考えています。デザインの仕事は属人化しがちですけど、それぞれが属人的にやっていると効率が下がります。Goodpatch社内のナレッジシェアはかなり活発だと思いますよ。
esaというツールを使っていますが、「息を吸うように」ドキュメントを残すんです。同時並行で30プロジェクトくらいやっているので、まずそこの情報共有。自社プロダクトの情報共有、それから東京とベルリンとの情報共有がありますので、血が通った情報共有ができていないと本当につらいです。
会社でいうと、50人から100人になるところが一番つらかったですね。正直に言うと崩壊しかけたのですが、その時に「うちの価値はなんだろう」と再確認したんです。それから独自価値の一つであるナレッジシェアのために一人あてて、社内のナレッジをキュレーションしてもらいました。
例えば半期に一度、プロジェクトレビューをやります。2週間かけて全部やるんです。ひとつあたり1時間かけてスライド100枚作って、何をした、どんなインタビューをした、そのアウトプットにどんなプロセスを経たのか……。
もちろんその資料は全社に共有しますし、直接レビューを見に来ることもできる。こうすることでナレッジがナレッジを生むようになります。
岡 土屋さんはマネジメントをデザインしようとしていますよね。
土屋 いま、マネージャーが成長していて、かなり強力になっています。デザインをやるうえで、マネジメントポジションは絶対に必要になるんですよ。
岡 でももっともマネージャーをやりたがらない職種はデザイナーの人たちですよね(笑)。
土屋 元々デザイナーはものを作りたい人たちなんです。でも、それを使う人がいるんです。作る人も使う人であって、その「人」をつくる仕事なんです、マネージャーは。
マネージャーって普通は経験者しか雇わないんですけど、そもそも僕たちのUI/UX領域の経験者って少ないので、未経験でもキャッチアップするんです。なので、これまでモチベーションのある人を育ててきました。
ものづくりよりも人づくり。人をつくるのが僕にとってのデザインになっていますね。 作る人で「パフォーマンスを上げる環境づくりができる人」のマーケットバリューは上がりますよ。なにしろみんなやりたくないから(笑)。
そこでもGoodpatchは再現性を持たせたいと思っています。僕らはReDesignerというデザイナー向けのキャリア支援サービスをやっているんですけど、僕たちはデザイナーを必要としている企業にめちゃくちゃ深くインタビューしているんです。
普通の求人情報って、年収がいくらとか福利厚生がどうとかっていうものだと思うんですけど、僕らは会社の組織図の中でデザイナーはどういう位置づけなのか、それをマネジメントしている人はどんなバックボーンなのか、というようなデザイナーが求めている項目をかなり作っているんですね。
そうしたらそれがデザイン組織のデータベースになるんです。うまくいっているのはどこで、それはなぜなのかを考えることができます。
岡 うちのデザイナーの皆さん、転職しないでね……(笑)。
ふたりの今後の展望
江幡 世の中の流れがすごく変わっていて、昔はものがあるかないかの時代がありましたけど、いまは手に入れているかどうかはもうあまり関係ないですよね。手に入れて、そのうえでどうするかが求められていると思っています。 体験価値を最初から最後まで作り出すことですよね。
KDDIだけでそれを全て実現することは難しいかなと考えました。そこはベンチャーと一緒に作っていけばいいかなと考えたんです。medibaは自分たちでできると思っています。その方向に行動していくことを考えています。
土屋 デザイン会社として初のIPOを目指しています。そういう会社、ないじゃないですか。そこをゴールにするつもりはまったくないのですが、うちみたいな会社がパブリックなマーケットで認められることは、日本のデザイン業界にとっていいことだと思っています。
先日も、ある広告代理店の人と話していて、クリエーティブの会社で10年越えてやり続けている会社はなかなかないという話題になりました。うちのように、ある程度の規模で、グローバルで、クオリティーの再現性も保ちつつやるのはかなり前人未到だと思っています。でもその中でやり続けたい。
あとは社内から生まれたプロダクトをマーケットで当てたいですね。それと、関わった会社にデザイン文化を浸透させていくということをやりたいです。先日、社内で話したのは「デザイン・ドリブン・カンパニービルダー」を目指そうということです。デザイン・ドリブンな会社をたくさん作っていくというのはひとつの方向性として考えています。
モノづくり企業への変革を目指すmedibaにとって、国内屈指のデザインカンパニーの代表者である土屋氏の話は強烈なインパクトを残しました。 今後、よりユーザーに寄り添うサービスの価値が高まるでしょう。
その中でCREDOに「All for User」を掲げるわれわれmedibaが、いかにユーザーをHAPPYにさせるサービスを提供できるか……。すべてのヒトに愛される「Life Innovation Company」になるべくモノヅクリに励むとともに、各界で活躍する方を招いての講演の実施・発信を続けてまいります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。あなたの「スキ」がmediba+編集部の励みになります!