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「プロダクトマネージャーたちよ誇りを持て」 Tably及川卓也氏に聞くPdM論

2019年10〜12月にかけて、mediba社内でPdM研修が行われました。medibaでプロダクトマネージャー(以下、PdM)及びプロダクトオーナー(以下、PO)に役員の丹野、岡を加えたメンバーがこれに参加し、自身の職能の理解を深めるとともに多くの学びや気づきを得たのではないでしょうか。

本研修の講師を務めたのは、Tably(テーブリー)株式会社の及川卓也氏です。

及川氏は、エンジニアとして当時世界第2位のコンピューターメーカーのDEC (Digital Equipment Corporation) に在籍後、マイクロソフトでWindowsの開発に携わり、GoogleでPdM・エンジニアリングマネージャーとしてキャリアを重ねてきました。

2012年には『プロフェッショナル仕事の流儀』への出演、日経ビジネスの「次代を創る100人」に選出されるなど、まさに日本を代表するエンジニアとも評される人物です。現在は自身が設立したTablyで、テクノロジーによって企業や社会の変革を支援する活動を続けています。

今回は、研修参加者以外にも及川氏の考えていることをブログでお届けしたい……ということで、mediba社員からPdMに関する質問を募って及川氏にぶつけてみました。

その回答に加え、さらに深堀するために編集部が追加インタビューを実施。今回は特別にその内容も掲載します。 質問は以下の3つですが、それぞれに丁寧な回答をいただき学びの多いQ&Aとなりました。気になる項目だけでも目を通してみてください。


経営層に理解してもらう方法とは

――まずは、上層部への働きかけに関する質問です。

プロダクトグロースのための改革を、経営層に説明するのが難しいと感じることがあります。やさしい言葉や例えを駆使して分かりやすくすべきでしょうか? 技術的なバックグラウンドも含めて繰り返し話すべきでしょうか?社内アンケート内容より(一部編集)

及川 これは双方からの歩み寄りが必要ですね。まず現場の人間は、「経営者だったらどうするか」という経営マインドを持った視点で歩み寄る必要があります。技術に明るいPdMは、技術用語を多用してしまったり、「技術者以外に伝わらない」と説明を放棄してしまったりすることがあります。

――ああ、それはありそうですね。

及川 でも、何かを理解してもらおうというときには、やっぱりそれなりの努力は必要なんです。技術用語をべつの言葉に置き換えるなど、相手がわかるためにできることは考えていきたいですね。

一方で、経営陣にも「さすがにここまではわかってほしい」ということを伝えていくのがいいでしょうね。双方が相手の立場に立てるような形を「つくっていく」のが理想的ではないでしょうか。

正直、「やれると思うことはすべてやったほうがいい」と思っています。

ソニー創業者の井深さん(井深 大氏)の言葉で「説得工学」というものがあります。これは、「説得するということは、一種のサイエンティフィックな、もしくは工学的なアプローチであって、それに対して技術者はもっと努力をするべきだ」というような意味合いだと私は考えています。

――でも、そうは言っても説得って大変ですよね……。

及川 話すだけでなく、実体を見せてあげるのが早いときもありますよ。プロダクトやITの価値は、いくら言葉で説明しても伝わらないことも多くて、そういう場合にはモノを見せてしまいましょう。

いまの言葉だと「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」というものがあると思いますが、テクノロジーの力をショーケース的に見せるという部分ではいろんな可能性や機会があると思います。理解してもらうための見せ球を持っておくのは冴えたやり方ですね。

――こちらが手を尽くすというのはわかりますが、「双方の〜」となるとすごく難しさを感じます。本当に経営者側が歩み寄ってくれるでしょうか。

及川 「実際に話したことがあるのか」という問題もありませんか? 「直属の上司を飛ばして話すのはよくないのでは……、ましてや役員なんて」と思ってしまいそうですけど、じつは上の人ほど意見を待っていたりします。

「そもそも聞く耳持たない」ということであれば、言っちゃ悪いですけどその会社はもうあまり魅力がない会社という可能性もあります。

だけど、じつはそこまで硬直化していることは多くありません。まずは飛び込んでみましょう。会社のための提言を嫌がる人はそんなにいないと思いますよ。

――なるほど、「経営者側からの歩み寄り」というのは、みずから飛び込んだほうが起こりやすいものなのですね。

プロダクト愛のないPdMはどうするべきか

――続いては、既存プロダクトに途中から入ってくるPdMに関する質問です。

途中参画して「プロダクトを愛している」とまでいかないPdMは、どのようにプロダクトと関わるべきでしょうか? また、どのようなマインドでいるとプロダクトを成長させられますか? 社内アンケート内容より(一部編集)

及川 まず「愛そうとする努力」は必要だと思います。理想論で言うと、ユーザーがいるということは、そのプロダクトになんらかの魅力があるということですから。

でも、途中から参画した人がいるプロダクトチームは貴重なんですよ。それは、第三者の視点を取り込めるということですから。

まずPdMは気持ちを正直にぶつけるのがいいと思います。チームのそれまでの経緯やしがらみを持たず「新規契約しようとするユーザー」と同じ目線の人と話せることは非常に大事なことです。

そのうえでPdM自身が愛せるように、チームとしてプロダクトを変えていきましょう。

――そこまでやりきれるといいチームになれそうですね。ほかの改善方法はありますか?

及川 もし「食わず嫌い」の傾向があるようでしたらそれは治したいですね。たまたま任命されてしまっただけで、いままでの仕事と違いすぎてやる気にならない……というパターンはよくある形ではないでしょうか。

でもこれはもったいないですよ。市場があり、そこでシェアを持っているということは使われる理由があります。それはそのプロダクトのいいところなんだと、偏見や先入観抜きにして知るということをやってみましょう。

――これはPdMに限らず有り得る話ですよね。

及川 私も一般ユーザーの使うWindowsをやりたくてMicrosoftにジョインしたのですが、途中、組み込みソフトウェア(POS端末とか、複合機のなかのWindows)の担当になったことがありました。

でも、実際にやってみたらすごくおもしろかったんですよ。数年だけでしたが、その経験は私にとって大きな価値になっています。

――食わず嫌いを治す方法ってなにかあるでしょうか?

及川 経験から身につくスキルは多くの場合、ある状況下でしか使えない限定的なものだと思いますが、それをメタ化する、抽象度を上げるということをして、ほかの領域に転移・再活用することの有益さを考えるといいのではないでしょうか。

意図しない配属やアサインも、それをあえて楽しむようにする。「そこで何かを得る」と考えれば、必然的に「成果」が必要になりますので、自然とその方向にマインドを向けていけるのではないでしょうか。

チームと事業、どちらの成長を選ぶか

――最後は「究極の選択」とも言える質問です。

プロダクトチームの成長と事業の成長、どちらかを優先しなければならないときにどう選択したらよいでしょうか? 社内アンケート内容より(一部編集)

及川 非常に難しい質問ですね……。でも、私は事業の成長のためにはチームの成長が不可欠であると考えています。メンバーが集まって「プロダクトチームです」と宣言しただけでは一枚岩になれないんです。

だからどんなに忙しかったとしても、全員で同じ方向を向くための時間を持ちましょう。それは、我々は何者か、どこに向かうのか、何を大事にしているのか、ということをしっかり確認する時間です。

そう考えると、チームの成長を最低限のところまで高めることを優先するのがいいですかね。それ以降は並列してやっていけるのが理想です。

――そもそも切り離して考えるのが難しい問題ですよね。

及川 もっと要素を分解して考えると、チームの成長というのは、個人の成長なわけです。ただ、個人の成長がつねに事業の成長と共存できるかというと、そうじゃないことも多い。

個人の成長は、新たな領域へのチャレンジが必要になりますが、そうすると事業のパフォーマンスは落ちます。事業の成長だけを考えるなら、同じことをひたすら繰り返して専門性や効率を高めるのが正解です。

そうなるとそこにトレードオフが発生しうる可能性はありますね。このときには納得感を持って、「事業成長のために継続してここをお願いしたい」というようなケースは出てくるでしょう。

でもだからこそ、チームとしての結束は大事です。このプロダクトのためにいまはこれをやらなければいけないということをメンバーがみずから理解できるといいですね。

自分のプロダクトという意識

――なるほど。では最後に、medibaでものづくりとチームづくりに励むPdMたちに向けてひと言メッセージをいただけますか。

及川 プロダクトへの誇りというものを忘れず持っていてください。大事にすべきブランドがあり、多くのステークホルダーがいるなかで、自分の意志がどこまで入っているのか……と自信が持てなかったりするかもしれませんが、それらは意思決定の要素でしかありません。

出てきた企画を結果としてそのまま通す形になったとしても、その時点でのPdMの意思として通したのであれば、世の中に出たときに「自分のプロダクトだ」と誇りを持てると思います。

つねに「自分のプロダクト」という意識を持ち続けてください。誇りは、自分がどんな価値をつけられたかで生まれてきますから。

――本日はありがとうございました。


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